Harmonia
オリジナル小説
恋に落ちた、その行方 26
〈藤野〉
めまぐるしい速さで四月が過ぎ去り、バイトに明け暮れたゴールデンウィークも終わって、いよいよ本格的な新生活が始まった。
佐久嶋さんは院生に、俺は大学三年生へと進級し、おたがい平日は勉強、土日はバイトと忙しく過ごしている。
俺は「佐久嶋さんとの愛の新居を造る」という夢のため、専攻する都市環境工学のほかに、新たに住居学系の科目を履修した。
友人たちからは「いくらなんでもそれは無謀だろ」と呆れられたが、「愛の新居!」と熱っぽく語る俺に苦笑いしながら、ノートを貸してくれたり、分からないところを教えてくれたりと、なんだかんだ言って皆温かい目で見守ってくれている。
佐久嶋さんは、以前にも増して本やノートパソコンとにらめっこしている時間が増えた。毎日図書館の閉館時間まで過ごすことがほとんどで、帰宅するのはたいてい二十三時前だ。
佐久嶋さんが風呂に入っている間に、俺は料理を温め直す。風呂から上がった佐久嶋さんが夕飯を食べる間、おたがいの一日を報告し合う。とは言っても、喋っているのはほとんど俺なのだけど、佐久嶋さんは穏やかに微笑みながら、俺の話を聞いてくれる。
食事が終わり、歯磨きまで済ませた後、まだソファで本を読んでいる佐久嶋さんを、後ろから抱きしめる。
繰り返し深呼吸して、佐久嶋さんのいい匂いで身体中じゅうを満たした後、うなじや耳に何度もキスをして、舌を這わせて。
「……佐久嶋さん、こっち向いて」
「……」
無言のまま、佐久嶋さんが面倒くさそうにゆっくりと、首を捻る。伏せ目がちの目元の、睫毛の長さに見とれながら、すこし尖ったくちびるに、自分のくちびるをぴったりと重ね、こじ開けるように舌を割り込ませる。
「……」
口のなかの熱に、蕩けそうになりながら、瞼を閉じて、吸い付くように佐久嶋さんを追い求める。快感で、身体が痺れてくる。
そうして身体の熱が次第に上がり、もうすぐ弾けてしまう、というところで、佐久嶋さんが俺の胸を、どんと強く叩く。
「……っ、」
荒く短い息で、潤んだ瞳で、「もっと欲しい」と求める視線を投げつけながら、それでも佐久嶋さんは、離れていってしまう。
「……はあ」
佐久嶋さんのくびすじに額を埋めたまま、俺は大きな息を漏らす。
身体の熱が、おさまらない。全身が、ドクドクと脈打っている。それは、密着した佐久嶋さんの背中や尻臀にも、余すところなく伝わっているはずだ。
「……早く休めよ」
そう言い残して、こちらを見もせず、まるで逃げるように佐久嶋さんは去って行く。
その後ろ姿を見つめながら、俺はまたひとつ、大きなため息をついた。
→27
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