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Harmonia

オリジナル小説

ミラクル 1 


 どうしてこんなことになってるんだろう、と冷静に考えれば、かなりおかしなこの状況に首を傾げる俺を完全無視して、ふたりは自慢の名機を見せ合いながら、こちらにはまるで理解のできない専門用語を駆使したカメラ談義を繰り広げている。
「……」
 同じAB型だから? 好きな物事にはとことんマニアック、というのが彼らの共通点で、結局俺はそういう彼らのオタクな部分を愛しているには違いないのだが、それにしてもだ。
「……ふう」
 思わず零れ落ちた、ほんの小さなため息を、熱く語り合っている最中なのになぜか聴き取ったふたりが、一斉にこちらを見つめる。
「どうした? まだ足りない? なにか頼もうか?」
「そろそろデザート行っとく? ここのチョコケーキ、めちゃくちゃうまいよ」
 保護者の顔をして口々に言い合うふたりに「いや、もう十分」と力なく返した言葉は彼らの耳には届かなかったらしく、競い合うように手を挙げたふたりが店員に向かって「三種類のきのこのピッツァを一枚お願いします」「チョコレートケーキ三つもお願いします」と低くてよく通る声で告げた後、何事もなかったかのように話の続きを始めるのを眺めながら、今度こそ聞こえないくらいのかすかなため息を漏らした。


 一年間のカナダ留学を終え帰国した健とは、変わらず友人関係が続いている。
 いや、変わらないというのはすこし違って、短い期間とは言え恋人同士で、おたがいの良い面も悪い面も知り尽くした関係だ。俺に取っては唯一無二の、気の置けない親友となっていた。
 とは言え、以前のようにいつもくっついているわけではない。大学四年となったいま、学内ですれ違うことも滅多にない。たまに連絡を取りあっては近況を報告しあう程度だが、将来の夢や恋愛について語り合うには最高の相手だった。

 そんな健から「馨の恋人に会わせて欲しい」と頼まれたのは、帰国後間もなくのことだった。
 留学中からせがまれて彼と一緒に撮った写真を送ったり、話はしていた。彼が写真家で、霊能者であることも知っている。
 カメラが趣味の健が、育都に会いたがるのはごく自然なことかも知れないが、何しろ元彼だ。育都の方が嫌がるに違いない、いや、いまは友人とは言え元彼と連絡を取りあっていることがばれたらタダでは済まないかも。でも嘘付いたところで人並み以上に勘の鋭い育都にはばれてしまうし、かと言って隠し事をすれば変に疑われてしまう。
 そんなことを悶々と考えて、そのうち胃痛までしてきて、それでもようやく覚悟を決めて育都に告げたのが、つい先ほどのことだ。
「いいよ。俺も会ってみたいと思ってたんだ。その、お前の元彼」
 何と言うこともないといった涼やかな顔でそう告げた育都に、俺は目を丸くしたまましばらくの間固まっていた。
「……え? いいって、ホントに?」
「ああ。なんならいまから呼んでみる?」
 電話しろよ、と促され、もはやパニックを通り越して完全に思考停止した俺のスマホを強引に奪い取ると、勝手に操作し始めた。
「もしもし。俺、馨の彼氏の葛木です。いまから来れる?」
 そんなことを、しゃあしゃあと話している。なんてこった!


 →


以前投票で第1位だった「MAGIC」のssです。
ずいぶんと遅くなりましたが、楽しんでいただければ嬉しいです。

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Posted on 2018/09/10 Mon. 09:07 [edit]

category: MAGIC

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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