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Harmonia

オリジナル小説

月明 3 


「そういえば、撮影のことは帆夏くんに話したのか?」
 椙本さんの問いに、片瀬は手に持っていた携帯電話を閉じて「まさか」と笑った。
「そんなこと話したら、すさまじい電話攻撃されて、撮影どころじゃなくなる」
「すっげえ愛されるって感じでいいよな。俺なんか最近『仕事中だから』って、電話しても全然出てもらえねえし」
 第一希望の会社に就職して、いまやすっかり企業戦士となった恋人のつれない態度を思わず愚痴る。
「学生だからヒマなんだよ。就職も『遠嶋さんが独立したら、そこで働くから』の一点張りだし、全然ひとのこと言えないけど、そんなに人生イージーモードで大丈夫かって時々思う」
「今日のこと、知ったらどんな反応するかな」
「さあ。案外いじけて音信不通になるかも。最悪『もう別れる』とか言い出すかも」
 そんな風に答えながら、それでも片瀬は愉快そうに笑っている。
「椙本さんの写真撮ったら、きっと健が妬くだろうな」
「そうかも知れない、……ふたり一緒に撮ってもらおうかな」
「健は脱がしますから」
 俺の台詞に、椙本さんが「それはいい」と笑う。
「健とは?」
「ああ、相変わらず、仲いいよ」
 余裕たっぷりでそう答えられ、なんとも面映ゆい気持ちになって、ふたり「ほお」とため息を漏らした。

 片瀬と出会ったのは、京都市内で開いた個展だった。独特の艶っぽい雰囲気を持った彼をすぐにでも撮りたいと思ったが、生憎その日は最終日で来客の応対に忙しく、軽く話をしただけで終わった。
 だから次の個展で彼の姿を認めた時は嬉しくて、こちらから声を掛けた。
 片瀬はひどく驚いた様子で瞠目した後、糸のように目を細めて「葛木さんが僕を撮りたいと思ってくれるなんて、すごく嬉しい」と微笑んだ。その顔がやはり色っぽくて、こいつめちゃくちゃエロそうだよな、とついにやけてしまったことを覚えている。
 話してみると、椙本さんの後輩で、俺の写真を知ったのも椙本さんに紹介されてのことだと言う。
「いつか三人で会おう」という、挨拶のような軽い約束が今夜の集いとなるとは、あの当時はまったく想像もしなかった。

 三人での会話は思いのほか楽しく、閉店時間を迎えても、最終列車の時刻が近づいても、まだ話したりなくてその場に佇む俺たちに、片瀬が「僕の家に泊まって行ってください」とすばらしい提案をしてくれた。
「それなら遠慮なく」と俺たちは片瀬の家に上がり込んで、畳の部屋に布団を二つ並べて横になっている。
 その俺の隣で「いつもは車のなかで寝るけど、今夜はふたりと一緒がいい」と部屋に寝袋を持ち込んで、同じく片瀬も寝転んでいる。
 深夜なので早々に灯りは消してしまったが、満月が近いせいか、あるいはここが街なかだからか、外は明るく、暗闇でもふたりの表情が見てとれる。

 性的な部分では奔放だと言わざるを得ない三人が、おなじ部屋で一夜を過ごしている。これが一昔前の俺たちなら、いまごろ組んず解れつの渾沌を繰り広げていたに違いない。
 それこそ、自由さゆえの孤独な心をもてあまして。
 淋しさを紛らわせるには、肌を重ねること以外、なにも思いつかなくて。

 しかし、いまはこうして寝そべっただけで、ぽつりぽつりと語り合い、声をたてて笑っている。
 時折鳴り響くバイブ音に頬を緩ませながら液晶画面を眺めたり、そうでなくとも頭のどこかには、いつも愛するひとの面影がちらついて、今頃なにしているだろう、なんて思ったりして、そんな不自由さを時に煩わしいと感じながら、その実言葉にならないほどのやすらぎに包まれている。
 そういう夜を、いまこのひとときを、心からいとおしいと思うのは、俺ひとりだけではないはずで、きっとふたりも同じように、この特別な夜を愉しんでいるのだった。



おわり


 


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Posted on 2018/09/23 Sun. 14:34 [edit]

category: MAGIC

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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