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Harmonia

オリジナル小説

ポラリスとばらの花 3 


学校が終わると急いで帰り支度をした。友人への挨拶もそこそこに家路へと急ぐ。家に帰るなり手に取るのは、アコースティックギターだ。去年の年末に、姉から買って貰った。

「音楽のこと、教えて欲しい」

躊躇いながら口に出した言葉に、姉はえ?と問い返した。

「音楽、俺もやってみたい。でも、何からしていいか、分からない」

どういう風に伝えたらいいのか分からなくて、途切れ途切れに思いつくまま口にした。

小さな頃からピアノを習い、中高と吹奏楽部に所属している姉とは違い、晴夏はスポーツ一辺倒で、音楽などまるで興味なかった。あの日のライブも、姉に強引に押し切られて観に行っただけだったのだ。
それでも、玲雄がピアノやギターを弾く姿に恋をした。玲雄の奏でる音楽を、もっと知りたい。同じ話題を共有したい。そして、自分もいつか隣で演奏したい。そんな夢まで抱くようになっていたのだ。

「今からでも、間に合うのかな」

「全然遅くないよ。大丈夫」

姉はきっぱりと答えた。

「とりあえず、やりたい楽器から選んだらいいよ」

「ピアノかギターがいい」

即答すると、姉は苦笑した。恋だねえ、なんて呟きながら。

「ギターがいいんじゃないかな。どこでも練習できるし。ほら、ギターやってる男の子って格好いい感じがする」

「そうかな」

「うん。絶対」

そのまま二人で商店街の楽器屋に行き、壁にずらりと並ぶギターを眺めていると、親切な店員さんがあれこれと説明してくれた。まるっきり初心者であることを伝えて、お勧めのアコースティックギターセットと、DVD付きの教本を選んで貰った。

「これで思いっきり練習して、上手くなったらバンドに入ってよ」

タイミングいいね、ちょうど昨日バイト代が入ったとこだよ、と言って姉は晴夏にはかなり高価なそのギターセットを贈ってくれた。さりげない姉の優しさに感謝しながら、まかせといて、と答えた。


この一年、ギターを手に取らない日はなかったと思う。何も分からないところから初めて、今では好きなアーティストのスコアを難なく演奏できるまでに上達した。

もちろん受験生だから、勉強の手を抜くことはしなかった。将来医学部を志望してるだけに成績を下げることは絶対に避けたかったし、両親からギターにのめり込んで成績が下がったなんて言われたくなかった。学校は欠席なし、生徒会役員も務め、バレー部のキャプテンとして引退試合まで出場した。絵に描いたような優等生の評判を保っている。

もうすぐ高校受験だ。きっと何の心配もなく、晴夏は志望校に合格する。玲雄と同じ高校で学ぶことができる。肩書きも、中学生から高校生になる。少しだけまた、玲雄に近づける。


あれから二度、玲雄のライブを観に行った。ステージの上の玲雄は相変わらず輝いていて、ただうっとりと彼だけを見つめていた。玲雄が歌うときに見せる、目を閉じて少し眉根を寄せる、切なげな表情がたまらなく好きだ。それは雪の夜に見た、美しい泣き顔を想起させて、その顔を見ると晴夏の全身が熱を帯びて震える。あの夜のように、悲しい涙を流していませんように、と願った。ステージを終えた玲雄に、一度も声は掛けなかった。

玲雄を思い出して、会いたくて、切なくなった時は、あのブレスレットを身に着けて、ギターを思いのままに掻き鳴らした。それだけで、玲雄と繋がっている気がした。

もう一度彼と話したい。触れたい。抱きしめたい。いつか、その時が来たら。そんな憧憬だけで、晴夏は生きている。学校も勉強も、将来の夢や目標や仕事も、晴夏にとってはぼんやりと霞んだ背景にすぎない。
玲雄。それが晴夏のすべてだった。



 →
 


またまた危ない雰囲気の子です。晴夏。
今日も読んでいただきありがとうございました。


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Posted on 2013/08/27 Tue. 23:54 [edit]

category: ポラリスとばらの花

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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