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Harmonia

オリジナル小説

葵 17 


「先生は、いままでに付き合った人とかいるの?」

べたべたになった身体をシャワーで洗い流し、さっぱりした僕たちは、ベッドで寝転びしながら話をする。キスしたり、髪や身体のあちこちに少しだけ触れたりして、子猫みたいにじゃれ合った。

「そりゃ、もういい歳だから、そういう人もいたよ。…そんな話、聞きたいの?」

「うん。聞きたい」

僕が知らない、先生の過去。今の先生を構成しているすべての要素を、僕は知りたい。
先生は少し困ったように微笑んでから、話し始めた。

「大学に入って、しばらくして恋人ができた。同じ学部の同級生で、すごく気があって、一緒にいたら心地良くて、僕はその人となんとなく結婚するのかなあ、なんて思ってた。でも、別れた」

「どうして?」

「彼女は大学卒業後地元で就職して、僕は進学のために上京した。僕はいつまでも学生で、しかも留学まで目指していて、頭の中は文学とフランスのことばかりだった。でも彼女は社会人としてたくさんの人と出会って、お金をたくさん稼いで、仕事で嫌な思いもいっぱいして、とても現実的な世界に生きていて。住む世界が変わってしまって、わかり合えなくなった。たまに会って話しても、会話がかみ合わなくなってしまった。そのうちに彼女に別の好きな人ができて、お終い」

「…まあ、それは仕方ない気がする」

「いや、前にも言ったけど、あの頃僕は自分のことで一杯いっぱいだったんだ。理解し合う努力さえしなかった。別れても、人生なんてそんなものって、どこか冷めた思いで眺めてた。要するに、愛がなかったんだ」

そう言ってから、先生は僕を見つめて、唇に触れてくる。唇が軽く合わさって、ちゅっと音をたてた。

「僕が諒くんを好きなのは、自分の目標を持って、真っ直ぐ真面目に生きているけど、周りの人にも優しいから。葵のお世話なんて大変なことも、当たり前のように受け入れて、たった一人のお姉さんを取られても、新と仲良くできたり。君の心には愛が溢れていて、面倒なことを避けないし、嫉妬とか独占欲とか、そういう人が持っているどうしようもない狡さや汚さが感じられないところ。きっとすごく大切に、真っ直ぐに育てられたんだろうな、って分かる。僕は、君のそういう所に、すごく憧れる。君と一緒に居ると、自分の魂まで清らかになっていく気がする」

僕は不思議な気持ちでその言葉を聞いていた。先生には、僕が天使のように見えているのだろうか。

「…僕は、そんな風にいい人じゃないよ」

何とかそれだけを言い返す。先生が微笑んだ。

「君と過ごすようになってから、僕の中にはたくさんの物語が生まれてきたよ。今まで、どんなに書きたくても書けなかったのに。君と出会って、君と話して、君に恋して、僕はやっと人を愛するという気持ちを知ったんだ。今まで見ていた灰色がかった景色が、突然色つきになって、鮮やかに見え始めた」

先生は心から嬉しそうに微笑む。

「花も、鳥も、街路樹もみんな、キラキラ輝いて見えるよ。葵のことだって、昔の僕ならきっと可愛いなんて思えなかった。でも、葵の泣き声も、真っ赤になった顔も、なにもかも愛しいよ。君のことを好きだと思う気持ちが溢れ出して、僕の世界に満たされた、そんな感じなんだ」

なんという幸せだろう。僕がずっと憧れていた人が、こんな素敵な愛の言葉を伝えてくれる。僕は嬉しくて、でも少しだけ切なくて、先生をぎゅっと抱きしめた。

「…死にそう」

「え?」

「幸せすぎて、死にそう。先生、僕をどうするつもり?こんなこと言われたら、もう他の人なんか絶対いらない。先生だけでいい。だから、お願いだからずっと一緒にいて」

「そのつもりだけど」

「絶対、絶対、約束だよ」

「うん。例え君が離れていこうとしても、僕は君のこと、離さないよ」

そう言って、僕たちはもう一度キスをして、微笑み合った。先生が僕を見つめる目がすごく甘くて、僕はその視線だけで蕩けそうだった。

「そろそろ起きようか。朝ご飯、食べに行こう」

「食べに行くの?」

「休みの日はいつも、ここから少し先のベーカリーでモーニングを食べるんだ。焼きたてのクロワッサンがすごくおいしいよ」

クロワッサン、と聞いたら、僕のお腹が突然ギューと鳴った。昨夜あれほどたくさん食べたのに、腹ぺこになっているらしい。

「行く。食べる!」

勢いよく起ち上がって着替え始めた僕を見て、先生がまた優しく微笑んだ。



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さくっと飛ばしました。
こうやってほのぼの会話をしている方が、この二人っぽいかな。
今日も読んでいただきありがとうございました。



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Posted on 2013/10/26 Sat. 21:46 [edit]

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