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Harmonia

オリジナル小説

満月ピエロ 6 


それからの日曜日は、いつも浅野と早朝ランニングをするようになった。楽しく走られたらそれでいい、という浅野の言葉に甘えて、僕のペースで運動公園内を走る。最初はただ苦しかった走りも、回数をこなす毎に心地よい爽快感に変わっていった。

ランニングの後は大抵図書館に行った。僕の趣味の時間も尊重したいという浅野の心遣いだろう。待たせたら悪いなんて思っていたのは最初だけで、浅野はコンピュータに関する本や漫画を借りて、中庭で夢中になって読んでいるから、僕も時間を気にすることなく小説を読み耽った。

昼になったら一緒に弁当を食べた。弁当は浅野が作ってくれる。ご飯と甘い卵焼きとから揚げとか、バケットに分厚いハムとチーズとレタスを挟んだサンドとか、とにかく男っぽい弁当だけど、浅野が僕のために作ってくれたと思うと、嬉しい。そして味も良い。

公園のベンチで一週間の出来事なんかを話しながらもりもり食べて、満腹で眠くなった浅野がベンチで寝転んで、そんな浅野の寝息を聞きながら、僕は借りた本を読む。そのうち眠くなった僕が、狭いベンチに浅野と頭をぶつけるようにして一緒に寝転ぶ。春の木漏れ日を浴びながら、午後の穏やかな時間を過ごす。

そんな風に過ごしているから、部屋に閉じこもっていた僕は次第に日焼けして、身体も筋肉がついてきて、ぐっと逞しくなってきた。ひょろひょろの体型は相変わらずだけれど、ずっと健康的に見えるらしい。

二ヶ月ぶりに会った董子に、すっかり見違えっちゃって、と驚かれた。

「そうかな」

「うん、なんか生き生きしてるよ。若返った感じ」

「そんなに老けてた?」

「老けてるっていうか、生気が感じられなかった。以前は」

相変わらずの物言いだけど、董子は嬉しそうに頬を緩める。

「うまく行ってるんだ」

董子が望んでいるような答えは返せない。あれから、キスはおろか手を繋いだことさえない。付き合っているというよりは、一緒に遊んでいるだけだ。

「いいトモダチ関係だよ」

「なーんだ。じれったいの」

そんな話をしながら食堂でいつもの日替わり定食を食べていたら、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、トレーを持った浅野が立っていた。

「浅野、」

話題の人物の出現に驚いて、目を丸くする僕に、浅野は、午後から会議があって来ました、と言った。隣の董子をちらりと眺めると、どうも、と軽く会釈する。

「浅野くん、久しぶり」

「お久しぶりです、水城さん。倉橋さんとお知り合いだったんですね」

「ええ、蒼一とは長い付き合いなの」

「そうなんですか。倉橋さん、隣いい?」

どうぞ、と席を勧める。

それから二人とも無言で食べているから、なんともいたたまれなくて、二人は知り合い?と尋ねてみる。

「うん。もう十年くらい前から知ってる」

「そうですね、もう十年も前だ」

また無言。なんだなんだ、と思っていたら、突然董子がくすくすと笑い始めた。

「浅野くん、こんなにぶちんが好きなの?」

「そういうところがいいんです」

「健気ねえ」

そう言って、董子は席を立った。後はごゆっくり。浅野くん、蒼一をよろしくね。そう言い残して、いつものようにすたすたと行ってしまう。

訳がわからなくて、首を傾げながら浅野を振り返る。浅野はこれです、と言って左脚を指差した。

「義足を新しく作ったり、身体に合わなくて作り直したりする時に、お世話になるんです。更生相談所の職員さんに」

「ああ、それで」

と言ったものの、董子が今の職場に異動してきたのは二年前だ。十年も前から知り合いとは、一体どういうことなのだろう、と思案していたら、浅野が僕をぎっと睨みつけてきた。

「なんで名前で呼ぶの?」

いきなり話題を変えられた。しかも、声が怒っている。

「水城さん、蒼一って呼んでた。なんで?」

強い口調にたじろぎながら、慌てて友達なんだ、と弁解する。

「小学校からずっと一緒の、幼馴染。小さい頃から蒼一って呼ばれてる」

「…それだけ?彼女とか、倉橋さんの初恋の人とかじゃない?」

「それは絶対ない。第一彼女結婚してるし、子どももいるよ」

なーんだ、と浅野が呟いた。いつもの笑顔に戻っている。

「俺、今から蒼一さんって呼びます。蒼一さんも、俺のこと名前で呼んで。あ、俺は呼び捨てでいいですから」

ほら呼んでみて、と促されるけど、なんだか照れくさくて呼べなかった。それでも浅野が呼べ呼べとうるさいから、しぶしぶ貴裕、と口に出した途端、猛烈に恥ずかしくなった。一瞬で顔が熱くなる。

「蒼一さん、可愛い」

耳まで真っ赤になった僕を見つめながら、浅野が嬉しそうに目を細めた。



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Posted on 2014/01/03 Fri. 22:00 [edit]

category: 満月ピエロ

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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