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Harmonia

オリジナル小説

幸福的理由 


トントンは僕のことを「変わった」と言う。自立して、ますますよく笑うようになって、もっともっと好きになった、と。
それはとても嬉しい言葉で、そんな言葉をくれるトントンが僕も大好きだ。

トントンだって変わった。お洒落でスマートで、何事も卒なくこなす。まるで少女マンガの王子様がそのまま現実の世界に現れたような人だと思っていた。
でも、それは要するに僕の前で恰好つけてただけのことであって、素顔のトントンはかなり甘えん坊で、わがままで、片づけが大の苦手。僕がいないと部屋は埃と脱ぎ散らかされた服が散乱して、シンクには洗われないまま放置されたお皿が山積みになっている。

それでも、そんな人間くさいトントンの方が、以前のトントンよりずっと魅力的だ。ふざけたり、情けなかったり、そんな姿がもっともっと見たい。いいところも悪いところも、全部ひっくるめて愛したい。
またトントン散らかして、とブツブツ言いながら掃除をこなす。愚痴が口から零れることに、微笑む。そんな毎日。僕にとって、かけがえのない愛しい日々だ。



三年前、来日したトントンの家族に恋人として紹介してもらった日に、僕は決意したことがある。それは、トントンの両親に幸せな姿を見せることだ。

トントンと僕の歳の差は十七歳。加えて四十過ぎて生まれた子供だということで、トントンの両親は八十を超えている。僕の両親はまだ四十代だから、もはやおじいちゃんとおばあちゃんに近い感覚だ。

以前トントンが言ってた通り、トントンの家族はトントンのことを溺愛していた。両親も、二人の兄もみんな、トントンが可愛くて仕方がないといった様子を隠すこともなく、そして何よりも、恋人である僕のことを認めてくれた。そんな心優しいトントンの両親は、きっと離れて暮らすトントンのことをいつも心配して、幸せを願っているはずだ。

今は二人ともまだまだ元気だけど、年が年だ。いつ何かが起こってもおかしくはない。早く一人前になって、トントンのことを守れる男になって、トントンの両親を安心させたい。そして、例えささやかでも、二人の結婚式を挙げたい。その一心でここまで頑張ってきた。



今日はめずらしく二人の休日が重なった。だから、昨晩はたっぷり時間をかけて、とろとろに溶けるような甘いセックスをした。明け方になってようやくシャワーを浴びて、ベッドに寝そべると同時に眠りに落ちて、目が覚めたら昼前だった。

身体がだるい。でも、幸せな気怠さだ。後ろから抱きしめらて、首筋にトントンの息遣いを感じながらまどろんでいる。このままずっとベッドから離れたくない。

う、ん、と鼻声が聞こえて、もぞもぞと手足を動かしている。トントンも目を覚ましたらしい。おはよう、と少し掠れた声で囁かれる。抱きしめられた腕に力がこもる。

「おはよう。腕痛くない?」

「うーん、感覚ない」

どんなに離して寝ていいと言っても、嫌だ、と腕の中にすっぽりと抱きしめられる。どんなに腕が痺れても、この気持ち良さはには代え難いな、なんて呟きながら。

「優貴は、平気?」

「うん。意外と大丈夫」

「昨日は、とてもよかったです」

うなじに唇を押し付けられて、くすぐったさと甘い痺れが走る。

「優貴は、よかった?」

「…わかってるくせに」

「言わせたいんです。あなたの口から聞きたい」

「最高に気持ちよかったです」

よしよし、と髪を撫でられる。痺れてない方の手のひらで。



しばらくの間そうされてから、くるりと体の向きを変えて、トントンと向かい合う。

「トントン、お願いがあります」

「なんですか」

改まった僕の様子に、トントンが首を傾げた。今度は何言い出すんだ、という表情だ。

「僕、トントンが初めて付き合った人で、初めてセックスした人なんだよ」

「知ってるよ。あの日のことは忘れられないな。優貴、ガッチガチでこじ開けるのが…」

「恥ずかしいからやめてください」

トントンの言葉を遮って叫ぶ。思い出させておいて、喋らせてくれないなんてケチだなあ、なんて言いながら不服そうに唇を尖らせているトントンを無視して、僕は続けた。

「いつもトントンにされっぱなしだから、僕はいまだ童貞です」

「へえ。知らなかったな。今までどのくらいしたかわからないくらい散々セックスして、それでも童貞って言う?」

心底呆れたような顔をして、トントンが言う。

「だって、されるばっかでしたことないし。だからさ、」

ごくりと唾を飲み込んで、続けた。

「結婚式の夜、初夜は、全部僕にください」

言った。ずっと思ってたこと、ようやく言えた。よっしゃ!と思って恐るおそるトントンの顔を伺うと、トントンは表情も変えずに黙りこくっている。

「…トントン、聞こえた?」

「ええ、もちろん」

「それで、答えは?」

「その前に聞きたいことが…」

ひどく真面目な顔でそう言われて、一体何を聞かれるかとドキドキしながら待つ。沈黙がやたらと長く感じる。

「…ショヤって、平成の前の元号?」

「それは昭和」

「大みそかの夜?鐘鳴らす…」

「それは除夜」

「うーん、ニホンゴムズカシイアルネ」

「いきなり中国人に戻るな!」

はあ、と盛大なため息が零れる。虫けらのような勇気を精一杯振り絞って大真面目に言ったのに、どうしてこんな時にからかってくるのか、この人は。

そんな僕を見つめていたトントンの腕が、まっすぐに伸びてくる。髪をくしゃくしゃにしながら、クスクスと笑っている。

「ひどいよ」

「ごめんごめん、優貴があんまり可愛かったから、つい」

「僕、大真面目だよ」

「わかってます。いいですよ。全部、好きにしてください」

思わず、ええっ?と素っ頓狂な声が出た。

「ホントに?」

「本当です。それこそ、大真面目に本当」

「…もしかして、経験アリ?」

内心ドキドキしながら、尋ねる。

「ないです。僕は、優貴みたいな可愛い子をべたべたに甘やかしながらすることしか、興味ない」

トントンが微笑んで続ける。

「僕こそ、あなたに聞きたい。僕はあなたより十七も年上で、もう四十のおじさんです。そんな僕があなたに組み敷かれて喘いだりしてる姿なんて、気持ち悪いと思わない?」

「思わない」

即答だ。

「幻滅しない?」

「しないよ。それどころか、もっともっと好きになる」

「悪趣味だなあ」

自嘲するような笑みを浮かべるトントンに、咬みつくようにキスする。

「違うよ。自分が思ってるより、トントンはずっと魅力的なんだ」

「おじさんでも?」

「おじさんでも、おじいさんでも。白髪でも腰曲がっても好きだよ」

同じキスを返される。

「幸福的理由」

「ん?」

突然中国語で呟かれたから、聞き取れない。

「幸福的理由。ほら、優貴が歌ってた歌詞にあったでしょう?僕の幸福的理由は、全部が全部、あなたですから」

ぎゅっと抱きしめられる。

「将来介護の面倒かけないように、日々鍛えておきます」

「…今からしてもいい?」

「それはムリ」

「ムラムラが止まらないんだけど、」

「処女だから心の準備が必要なんです」

ご飯食べましょう。さあ、起きて。促されて、渋々ベッドを後にする。

今までどのくらいしたかわからないくらい散々セックスして…、という台詞、そっくりそのままトントンに返すよ。


END


トントン話が止まらん。


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Posted on 2014/02/26 Wed. 22:51 [edit]

category: トントンと優貴くん

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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