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Harmonia

オリジナル小説

ラブ・バトル 


 日曜日の昼下がり、僕は自宅の居間で翌日提出するレポートの文面をチェックしながら、約束の時間を今か今かと待っていた。
 パソコンの画面に電話マークが表示され、急いで通話ボタンを押すと、水色のチュニックを着た葵がツインテールを揺らしながらにこにこと笑う姿が映し出される。
『りょうくん!』
 姉の膝の上に座り、大きな目をくりくりと輝かせながら僕の名前を叫んでいる姿に、僕は手を振りながら呼びかけた。
「葵!」
『りょうくん、あのね、あのね、あおいね、……』
 まだつたない言葉で一生懸命に話そうとする葵の姿を、相づちを打ちながら目を細めて見つめる。可愛い可愛い葵とのおしゃべり。休日の、至福の時間だ。
『りょうくん、あおいね、りょうくんだいすき!』
「僕も、葵が大好き!」
 デレデレと鼻の下を伸ばしながら答えていると、突然背後からぽんと肩を叩かれた。驚いて振り返ると、そこにはいつの間にかうちにやって来た先生がつっ立っている。
「やあ葵。元気そうだね」と、学生に話しかける時と同じ、飄々とした口ぶりで画面の葵に手を上げた。
『あ!せんせい!』と叫ぶや、葵は先生に向かって思いっきりあっかんべーをする。
『せんせい、やだやだ!あっちいって!』
「残念だけど、それはできないよ。なぜって、僕と諒くんは仲良しだからね」
 ほら、と言って、先生が僕に頬をぴったりとくっつけると、画面の向こうの葵が『ダメ―!』と叫んで泣き出した。
「ほーら、葵より僕の方が諒くんと仲良しなんだよ」と、先生は尚も僕に密着してくる。葵の背後にいる姉も、苦笑いというより「おいおいマジかよ」といった微妙な顔でこちらを見つめているから、恥ずかしいことこの上ない。
「先生!」
 背後から張りついている先生を必死で振り払いながら、画面上で泣き叫んでいる葵をあやしたり、姉に平謝りしたりと、週に一度の貴重な葵との電話デートが、この日は散々なものとなってしまった。


「ちっちゃい子相手に大人げないんだから」
「諒くんがいけないんだよ。僕以外のひとに『大好き』だなんて言ってはいけない」
 口を尖らせてそう答える先生の顔は、葵とそう変わらないくらいの幼さだった。
「だいたい、あんなに可愛がっていたのに、いつから犬猿の仲になっちゃったんだよ」
「諒くんを狙う人間は、たとえ幼児であっても僕の敵だからね」
「……」
 あきれかえって何も答えずに溜息をつくと、先生がふっと笑った。
「冗談だよ。あの子が可愛いに決まってる。……だってほら、葵は僕たちの恋のキューピッドだから」
 先生が目を細める。そうだ、この部屋で、ふたり必死になって、生まれたばかりの葵の世話をした。あのあまくしあわせな日々は、僕たちにとってかけがえのない、大切な思い出なのだ。
「可愛いくて、なによりも大切な、僕たちの姪っ子だ」
「……先生、」
 僕は先生に抱きついた。頬に、額に、くちびるに、何度もキスをすると、今度は先生の方から僕に仕掛けてくる。舌と舌を絡ませあう濃厚なキスで脚の力が抜け、バランスを崩した僕を押し倒すように、ふたりしてソファに倒れ込んだ。
「……あの時、ここで眠っている諒くんを見つめながら、」
 僕の鎖骨にくちづけしながら、先生が低く艶を帯びた声で囁く。
「……襲いかかる自分を想像をしてたな、こんなふうに、」
 捲り上げたシャツから覗いた胸の先に、歯を立てられた。
「……あっ、」
「そう、想像のなかの諒くんも、今みたいな可愛い声で喘いでた。……でも、もっと激しく」
 口と指先で両方の胸の尖りを執拗に攻め立てられて、僕は淫らな声を抑えることができない。目に涙を浮かべ、荒い息を吐きながら上ずった声で叫ぶ僕を上目遣いに見つめながら、先生は満足気に微笑んでいた。

 
 窓から春の陽が差し込む明るい部屋の、せまいソファの上で僕たちは身を寄せ合い、毛布にくるまっていた。
 いつもは割と緩やかなセックスを好む僕たちが、今日は今までにないくらい激しかった。上になったり、下になったり、身体に力が入らなくなるくらい無理な格好で抱き合ってしまったのは、付き合い始める前の、ひとつ屋根の下でおたがいを恋い焦がれていたあの頃のことを思い出したからだ。
「たまにはここでするのもいいね」
「そうだね。もうすぐ出来なくなるから今のうちに」
「……え?どうして、」
 僕の言葉に、先生が首を傾げる。
「え?……って、ひょっとして、新さんから聞いてないとか、」
「聞いてないって、何を?」
「えー!」
 これだから男兄弟は!と僕は叫んでしまった。
「実咲ちゃん、お腹に子どもがいるんだよ。あと一ヶ月したら安定期に入るから、こっちに里帰りするんだ」
 僕の言葉に、先生はしばらくの間黙り込んでいた。
「それは要するに、葵も一緒にここに住むと理解すればいいのだろうか」
「もちろん。出産後もしばらくはこっちで過ごすって言ってたよ」
「……そう、」
「また葵と一緒に暮らせるだなんて、すごく嬉しいんだ」
「……ああ、」
「先生も、楽しみでしょ?」
「もちろんだとも」
「早く来月にならないかな!」
 葵との生活に心弾ませてはしゃぐ僕の隣で、先生はなぜか不敵な笑みを浮かべていたのだった。
 

おわり


「葵」から、相変わらずの諒くんと先生でした。


はなさま
こんにちは。いつもありがとうございます!
お腹の子どもまで諒くん争奪戦に加わるのですねw
先生の子どもじみた嫉妬に、諒くんはますます苦労しそうです。
それでも相変わらずラブラブのふたりを楽しんでいただけたようで嬉しかったです。
そして、はなさまからは「葵」の話を書く度にいつも欠かさずコメントをいただいて、ありがとうございます!本当に本当に励みになっております!
すこしずつですが、諒くんと先生のお話は書いていきますので、今後も引き続きよろしくお願いします。
コメントありがとうございました!
(2015/03/28)



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Posted on 2015/03/27 Fri. 01:16 [edit]

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