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Harmonia

オリジナル小説

MAGIC 2 


 好きだという気持ちを伝えるつもりなど、なかった。ただ仲の良い友人として、側にいられるだけで、十分にしあわせなはずだった。そうやって、いつも自分に言い聞かせていた。この想いは、永遠に自分の心の裡に留めておかねばならないものだと。

 事件が起こったのは、大学三年に上がった春のことだった。友人達との花見で、勧められるがままに飲んで酔いつぶれてしまった俺を、健が抱き抱えるようにしてアパートまで送り届けてくれたあの日。
 玄関のドアが閉まり、「靴、脱げるか」と俺の足元に身体を屈めた健の、シャツの裾から覗いた細い腰と、白い肌に浮き上がった背骨に、俺は目を奪われた。
 触れたい、と本気で思った。心が制止する前に、身体が動き出していた。
 震える指先が、肌を伝う。
 なめらかな皮膚の下の、骨ばって尖った感触。伝わる体温。指先からいとおしさが溢れ出し、零れた。両の腕で、健の細い腰を包み込み、ぎゅっと抱き寄せて、背中に頬を寄せた。
「……ごめん、」
「……」
 抱きしめながら、じわじわと涙がこみ上げてきた。こうなってしまった以上、もはや取り返しがつかないことは分かっていた。鈍感な男ではないことは、これまでの付き合いで重々承知している。だからこそ、最後まで隠し通さなければならないと決めていたのに。
 どうしようもない悲しみと絶望感に襲われて、俺は健に縋り付いたまま動けなかった。 健は黙ったまま、俺に身を任せている。
「……馨は、ずっと俺のこと好きでいてくれたよね」
 俺は身体を強張らせた。健の言葉に、頭がひどく混乱する。
「ありがとう」
 健の言葉の意図が、まるで理解できない。感情が昂ぶって、涙がどっと溢れた。
「……健、ごめん」
 しゃくり上げながら、俺は言った。
「俺、……おまえが好きだ」
「……」
「初めて出会ったときから、ずっと好きだ」
 健が身体の向きを変え、向かい合うと、俺の頭を撫でながら、まるで小さな子どもをあやすようにもう片方の手で背中をトン、トン、とやさしく叩く。
「悪いのは馨じゃない。俺の方だ。……馨の気持ちに気づいてたのに、ずっと友達でいたくて、気づかないふりして逃げてたんだ」
 俯いたまま、俺は首を横に振った。
「あのさ、……付き合ってみようか」
「……え、ええ?」
 しばらくの沈黙の後の、健の突然の言葉に、俺は目を瞠って叫んだ。
「いや、だって、俺のことそういう目で見てなかったんだろ。同情とか惨めすぎるし、嫌ならもう友達だってやめていいんだからな!」
 パニックになってまくし立てる俺の肩を、健が強く掴む。
「それは絶対にない。……馨は、大切な友達だ。それはこの先もずっと変わらない」
「……だから、『それ以上』にはなれない。……そうだろ?」
「それは付き合ってみないと分からないことだろ」
 健が苦笑する。
「俺、馨のこと好きだよ。真面目で目立たないところで努力してるとことか、なにより素直だし、でもすこし天然入ってるとことか、初めて出会ったときから可愛いって思ってる」
「……可愛いって、」
 ボッと頬を赤らめた俺にくすりと笑って、健が続けた。
「うん、そうしよう。付き合ってみようよ」
 そうだ、彼はこういうヤツだったと、俺は大きな溜息をついた。物事についてあれこれと悩まず、まずは行動に移る。「もし~になったらどうしよう」とか「だって~だから」などとあれこれ理由をつけてはアクションを起こさない俺とは、真逆の思考回路を持つ男だった。
「でも、」と言いかけた俺のくちびるを、健は人差し指で封じた。
「『でも』はナシ。……言っとくけど、俺本気だし真面目だから」
「……でも、いいのか?」
 消え入るような声でつぶやいた俺に、健はにっこりと笑う。
「うん。……なんなら今からチューしようか?」
 からかうように笑うから、俺はくちびるに触れたままの細い指先に、ぎゅっと歯を立てた。


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Posted on 2015/10/27 Tue. 23:00 [edit]

category: MAGIC

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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