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Harmonia

オリジナル小説

MAGIC 10 


「……育都、は、今いくつ?」
「二十六」
「さっきフォトグラファー目指してるって言ってたけど、どんな写真撮るの?」
 育都の瞳が、踊るようにきらりと輝いた。
「ひとが好きなんだ。ベッピンでもブスでも赤ん坊でも年寄りでも優しくても醜くても、そういうの全部ひっくるめて、人間を撮りたい」
「……そっか」
「馨も撮りたい」
 まっすぐに瞳を見つめられる。突然自分に向いた矛先に、俺は言葉を詰まらせた。
「初めて会った時にそう思ったんだ。撮らせろよ」
「無理」
「なんで?」
「なんでって、とにかく嫌いなんだ。写真撮られるの、昔っから」
「だから、なんで?」
「なんでって、……だって、恥ずかしいだろ。わざわざ写真にしてまで自分の顔なんか見たくないし」
 そっぽを向いた俺の頭の上に、育都の手が伸びてくる。前に会った時のようにくしゃくしゃと髪を撫でられた。周囲の女性客たちの注目を集めているのは明らかで、好奇の視線が痛い。育都をぎっと睨み付けるも、そんな俺のことなどまったく気にもしない様子で育都はなおも攻めてきた。
「なあ、俺は毎日いろんな場所でいろんな人間の記念写真を撮りまくってるプロだぜ」
「……」
「お前の写真嫌いなんか、一瞬で治してやるよ」
 にっと得意げに笑う育都を見つめて、俺は小さく息をついた。いったい彼のこの自信はどこから溢れ出してくるのだろう。どうしてこんな風に、相手に拒否されることを怖れず、人と向き合えるのだろう。
「……写真撮られるのを好きになったら、なんか変わるかな、」
 答えを求めてはいたわけではない。思いがつぶやきとなってするりと飛び出した。
「絶対に、変わる」
 そんな俺の言葉に、育都が力強く応える。見つめるまなざしが、包まれるようにあたたかく、優しかった。
「だから、俺にまかせろよ」
「……」
「なあ」
 にっこりと微笑んだ顔に、降参した。無言のまま、俺はこくりと頷く。
「それじゃ早速今日撮るってのはどうだ?」
 やけに愉しそうに弾む声の育都に、俺は慌てて首を横に振った。
「ごめん、今から実家に帰るんだ」
「Yまで? 電車?」
「高速バス。いけね、九時半の便だからそろそろ行かないと」
 店内の壁掛け時計を見て、慌てて立ち上がった俺の前に長い腕が伸びてきたと思ったら、ぎゅっと腕を掴まれた。
「……なに、」
「俺が送ってやるよ」
「……え?」
「今日は十日ぶりの休みなんだ。一日フリーだから、俺も一緒に行く」
「……いや、でも……」
 話の展開に、思考が追いつかない。口ごもったまま黙り込む俺を置いてけぼりにして、育都はなおも続ける。
「そういやばあさんにも随分会ってねえし、久しぶりにラーメン食いに行こう。秋本のラーメン、馨も懐かしいだろ」
 にっこりと完璧な笑顔に、有無を言わさぬ態度。拒否権はないのだと悟り、俺は項垂れた。
「……ラーメンは、確かに食べたい」
「よっしゃ。それじゃ早いとこ出ようぜ」
 勢いよく立ち上がった育都に、「お土産買ってくるからここで待ってて」と言い残してパン売り場へと走った。

 ベーカリーから歩いて五分もかからない距離にある「葛木写真館」に立ち寄った育都は、「すぐに戻る」と言ってシャッターを半分上げると、店内に消えていった。ちょうど育都と初めて出会った夜に机が置いてあった場所に立ち、向かいのコーヒーショップに目をやる。窓際の席には俺と同い年くらいの男が、窓の外をぼんやりと眺めながらコーヒーを飲んでいる。
 よく知りもしない男と長時間車内で過ごすうえに、写真を撮られる。とんでもない展開に、いまも頭がくらくらしている。本当は逃げ出したいほど怖い。それでも断わらなかったのは、相手が育都だからだ。
 取り立てて容姿が良いわけでもお洒落なわけでもない。背は低い方だしめったに笑わないし、どこにでもいる平凡な大学生に過ぎない自分を、育都は「撮りたい」のだと言う。
 単なる好奇心かも知れないし、育都に流されているだけなのかも知れない。分からないがとにかく、育都が放つ鮮やかな原色の光に、いま自分は強烈に惹きつけられている。そして育都が言うように、写真を撮られることで本当になにかが変わるのかを、知りたかった。



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Posted on 2015/11/07 Sat. 00:05 [edit]

category: MAGIC

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