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Harmonia

オリジナル小説

MAGIC 13 


 視線を逸らした俺の頬が、育都の熱い手のひらに包まれる。
「返事は?」
「……」
「なんでもいいから、答えろよ」
「……なんで?」
「……」
「……なんで、俺? あんた、俺のなにを知ってるって言うんだよ。ついこの間知り合って、ちゃんと話すのも今日が初めてで、それなのになんで『付き合って』とか、そんな平気な顔して簡単に言えちゃうんだよ」
「……」
「あんたにとっての『付き合う』は、そういう軽いものかも知んねえけどさ、……俺にとってはそうじゃない。現にいまだって、失恋してこんなにも無様に落ち込んでて……」
「……」
「……こんな思いするくらいなら、なんで恋なんてしたんだろうって、……そんな後悔ばっか浮かんできて。……だから、いまは……」
 胸が痛い。涙が零れそうになって、俯いた俺の頬を、育都の指先がきゅっとつまんだ。
「痛えよ……」
「俺が嫌いだとか生理的に無理とか、そういうことじゃないんだよな」
 顔を上げると、意外にも育都は笑っていた。
「傷心が癒えるまで待つ。それでいいか?」
「だからっ」
 俺が叫ぶのと、育都が俺の身体を抱きしめるのが、同時だった。
「その傷、俺が癒してやる」
「……」
 心臓が、どくどくと音をたてて鳴る。息が止まりそうなくらい、高鳴っている。
「そいつのことなんかすっかり忘れてしまうくらい、いっぱい楽しもうぜ」
「……なんで?」
「なんでって、理由なんてひとつしかないに決まってんだろ」
「……」
「お前のことが好きなんだ」
「……」
「一目惚れだよ。悪いか」
 完全に開き直ったようなドヤ顔で断言されて、俺はがっくりと肩を落とした。
「……訳わかんねえ」
「あのなあ、恋に訳も理由もあるわけないだろ? 好きだと感じたら、それはもう好きでしかないだろ? 他の感情には置き換えられねえだろ? お前だって好きなヤツいたんだからそんくらい分かるだろ?」
「……」 
「『考えるな、感じろ!』ってヤツだ」
「……」
「それから、言っとくけど絶対に軽い気持ちなんかじゃねえからな。太平洋なみにでかい愛でお前の身も心もメロメロに……」
「あーーー!」
 俺は叫んだ。呆れていたし、こいつ馬鹿だと思ったし、腹立たしかったし、なによりも、うらやましかった。育都と一緒にいると、うじうじしている自分が本気で馬鹿らしいと思えてくる。暗闇から一気に陽の下に晒されたような感覚に、眩暈を起こしそうだった。
 そして、そんな育都が放つ光に、俺はどうしようもなく惹かれているのだ。
「……楽しむって、なにすんの?」
「そうだな。夏だからキャンプに行こうぜ。ドライブもいいし、うまいものいっぱい食って、写真もいっぱい撮る」
「え、写真は嫌だ」
「まだ言うか。……じゃあ、馨はなにがしたい?」
「え?」
 不意打ちの質問に、俺は黙り込む。
「お前がやりたいこと、なんでもする」
 育都の肩越しに、海がきらきらと煌めいていた。目を細めて、その輝きに見入る。
「……泳ぎたい」
「よし、泳ぐぞ」
「……え、まじで?」
 俺の身体から腕を離したかと思うと、即座にシャツとパンツを脱いで、あっという間に育都はボクサーパンツ一枚の姿となった。野生動物のようにしなやかで均整の取れた身体が目にまぶしい。ぼーっとしていたら長い腕が伸びてきて、シャツの胸元を掴まれる。
「自分でやるからいい!」
「いいから、脱がすのは得意だから」
 襲いかかる育都から必死で逃げながら衣服を脱ぎ捨て、俺は波打ち際まで走った。


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Posted on 2015/11/10 Tue. 12:00 [edit]

category: MAGIC

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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