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Harmonia

オリジナル小説

光り輝く方へ 3 


 長い沈黙の気まずさにも、川上は屈することなかった。仕方なく僕は口を開く。
「……そうだな。とりあえず、頑張ってみる」
 僕の言葉に、川上は瞳をくるくるさせながら大きく頷いた。
「うん。頑張れよ。応援してるし、話でも愚痴でも、いつでも聞くから」
「あ、でも川上に話したらなんかすごくすっきりした」
 誰かに話を聞いて欲しかったのだと、僕は今さらながらに気づいた。会社を辞めようかと悩んでいた頃も、結局誰にも相談できずにひとりで思いつめていたのだった。
「森崎は、今の仕事向いてると思う。優しくて強いから」
「……え?」
 思いがけない言葉に、正直驚いた。怪訝な顔で見つめる僕に、川上は言葉を続ける。
「森崎が憶えてるかどうか分かんないけど、高校時代、俺が同じクラスの奴らから『きもい』とか散々なこと言われてた時に、森崎だけが止めてくれた」
「……あ、」
「俺、あの時教室のドアの外で、全部聞いてたんだ」
 そう言って、川上がまたにっこりと笑った。


 あの時のことは、今でもはっきりと憶えている。放課後の教室で、きっかけはクラスの女子のひとりが「キノコボーがドラッグストアで化粧品を買い漁っていた」と言い出したのが事の発端だった。

「リップとかアイラインとか、めっちゃ真剣な顔して選んでたんだよ」
「えー、それってどういうこと?」
「彼女へのプレゼント?」
「あいつに彼女とか、あり得ないでしょ」
「もしかして、女装が趣味?」
「やだー、気持ち悪い!」
 そんなことを大声で話していたものだから、他の女子や周りにいた男子まで加わって、川上の根も葉もない噂話に盛り上がっていた。その時点でかなり気分が悪かったのだが、話は次第にエスカレートしていき、男子生徒のひとりがへらへらと笑いながら「あいつホモなんじゃね?」と言い放った瞬間、僕は立ち上がった。
「それ、川上に面と向かって言えるのかよ」
 僕の言葉に、その場がしんと静まり返った。
「だいいち、女装しようがホモだろうが、川上の自由だろ。それを影で笑いものにしてるおまえらの方がよっぽど悪趣味だし、気持ち悪い」
 その場にいた全員が、ばつの悪い顔をしていた。「うっせ」とか「空気読めねえやつ」とか、男子のなかにはあからさまに悪意をぶつけてくるやつもいたが、僕は無視して教室から出て行った。


「あれは知り合いのベース仲間から頼まれて、ヴィジュアル系バンドのライブに参加することになったんだ。『本番までに化粧の練習しとけよ』って言われたから、仕方なくあれこれ買ってたところをクラスの女子に見られてたんだな」
「……そっか、」
「森崎はおとなしいやつだって思ってたから、あの時はすげーびっくりした」
「違う。あれは、」
 そこまで言って、僕は口ごもってしまう。
「……」
 黙り込んだ僕を覗き込むように、川上の大きな目がぐっと至近距離まで接近した。その瞳に吸い寄せられるように、僕は恐る恐る、言葉を続ける。
「……こんなこと言ったら、本気で引かれるかも知れないけど、僕ゲイなんだ」
 僕の言葉に、川上が一瞬目を見開いた。

「あの頃は自分がゲイだってことがすごく後ろめたくて、他のやつらとは違う自分をどうしていいのか分からなくて、すごく悩んでいた。だから、あんな風に言われた言葉に僕自身が傷ついて、どうしても我慢できなかったんだ」
「……そうだったんだ」
 今度は僕が大きく頷く。
「だからあの時のことは、川上のためとかじゃないし、それに、……僕は優しくも強くもない」
「それでも、俺は嬉しかったんだよ。森崎の言葉」
 僕の言葉を遮るように、きっぱりと川上が言い放つ。
「俺の中学時代の話、していい?」
 ふいに切り出した川上の言葉に、僕は黙って頷く。

「俺、中学の後半は不登校だったんだ。仲良かった友達がいたんだけど、そいつが好きだった女の子に俺が告白されて、それがきっかけでそいつから無視されたり周囲の友達からも影口叩かれるようになって。そういうのが嫌になって部屋にこもってた。ベースを始めたのもこの時で、練習してる時は嫌なこと考えずに済むから、それはもう無我夢中で弾きまくってた」
 その時のことを思い出したのか、すこし遠い目をして、川上が続ける。
「中学のやつらと顔を合わせたくなかったから、遠くの高校を受験した。心を許してたヤツに嫌われたり、無視されて痛い思いをするのはもう絶対に嫌だったから、空気みたいな存在でいようと心に決めた。妙ちくりんな髪型にしてたのも、本当は他人を寄せ付けたくなかったからなんだ」
「……そっか、」
「でもさ、それはやっぱり本心じゃなかったんだよな。友達が欲しかったし、くだらない話で笑い合ったり、一緒に遊んだりしたかったんだ」
「……」
「俺、森崎のあの時の言葉、本気で嬉しかった。本当はあの後ずっと、森崎と話してみたかった。でもあの頃はまだ勇気なくて、結局できなかったけど」
「……そんな、」
 驚きの連続で目をぱちくりさせている僕を、川上はもう一度しっかりと見つめ直した。
「あの時、俺は決めたんだ。森崎に負けないくらい、強くて優しい、本当に格好良い男になろうって。だから、ここまで真っ直ぐ前を向いて走ってこれたのは、森崎のおかげ。礼を言わなきゃなんないのは、俺の方だよ」
 そう言って、川上はふわりと微笑んだ。花の香りを運んできた春風みたいな、優しい笑顔だった。
「ありがとう。もし森崎がよかったら、俺と友達になって欲しい」
 改まってそんな事を言われて、僕は赤面してしまう。
「……だから、ここでこんな長話してる時点で、もうとっくに友達だろ」
 川上がははっと笑った。
「確かに、そうだよな。……もうすぐ十二時だけど、時間大丈夫?」
「え、もうそんな時間?」
 いつの間にか周囲にいた客も、ほとんどいなくなっている。
「良かった。一緒にいて時間が経つのを忘れるくらい、俺たち気が合うんだな」
 そう言って川上が嬉しそうに笑ったから、僕もつられて笑った。


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Posted on 2016/02/18 Thu. 00:00 [edit]

category: 短編

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