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Harmonia

オリジナル小説

月夜と檸檬 4 


 檸檬の香りは瑞季が寝ている部屋の隙間からすり抜け、ぼくの部屋へと漂ってくる。昼食後、軽く昼寝をしようと思い、一旦は布団に横になったが、ひとたび匂いを意識してしまえば妙に頭が冴え渡ってしまい、仕方なくぼくは庭に出て草刈機のエンジンをかけた。外は良く晴れていて、すこし身体を動かしただけで汗ばむような陽気だ。首に巻いたタオルで時折汗を拭いながら、ぼくは作業に没頭した。
 午後三時のチャイムが響いて、休憩しようとエンジンを止めて振り返ると、縁側に瑞季がぽつんと佇んでいた。
「おはよう」
 声を掛けると、瑞季はばつが悪そうな顔でこちらを見つめてくる。
「……えっと、寝過ぎてごめんなさい」
「昨夜寝てなかったんだろ。よく眠れたなら、いいに決まってる」
「朝、一度目が覚めたけど、全然身体が動かなかったんだ」
「もう平気? オムライス作ってあるけど、食べる?」
「あ、いただきます」
「ラップかけて冷蔵庫に入れてあるから、適当に食べて。あと、冷蔵庫の麦茶を一杯もらえると、助かる」
「すぐ持ってくる」

 縁側に座って汗を拭っていたら、瑞季から氷の入ったグラスを渡された。すぐ隣に座った瑞季はオムライスを食べている。
「こんなに眠れたの、いつぶりか分かんないくらい久しぶりだ」
 半分ほど食べ終えた頃、瑞季がぽつりとつぶやいた。
「眠れてなかった?」
「仕事辞めてからは、あんまり。寝てもすぐ目が覚めるし」
「そっか」
 無造作に投げ出された、裸足のままの足の甲に陽の光が当たって、真白く輝いている。
「モトさん、いい家に住んでるね。すごく静かで、いろんな鳥の声が聞こえる」
「母方の祖母が亡くなるまでずっとひとりで暮らしてたんだ。母親はこんな田舎の古い一軒家だから取り壊してしまおうって言ってたんだけど、ぼくは子どもの頃からここが大好きだったから、譲り受けてあちこち改装しながら気ままに暮らしてる」
「なんか、落ち着くんだ。この家も、モトさんも。……ずっとここにいたくなるくらい」
「ずっといてもいいよ」
 ぼくの言葉に、瑞季は一瞬目を丸くしてから、「あ、……えっと」と口ごもる。俯いてしまったから表情は見えないが、ひどく動揺していることだけは伝わってきた。ぼくは曖昧に微笑んで、続けた。
「とりあえず、この先もずっとぼくはここにいるつもりだから、また来たくなったらいつでもおいで」
「もう少しだけ作業してくるから、寛いでて」と言い残して、ぼくは立ち上がる。
「あのさっ」
 振り返ると、耳まで真っ赤に染まった瑞季の顔が目に飛び込んできた。
「食べたら、手伝うよ。このままじゃ、食って寝に来ただけになる」
「助かるよ」
 ぼくは片手を上げて、草刈機を置いた庭の方へと歩き出した。真っ赤に熟した、甘ずっぱい苺みたいだ。そんなことを思いながら、ぼくの顔はひとりでににやけてしまう。

 白い長袖シャツに着替えた瑞季に麦わら帽子とガーデンレーキを渡して、刈った草を集めてもらった。夕方まで黙々と作業をして、普段ほとんど身体を動かすことがないという瑞季は「腰が超痛え」と言いながら、それでも晴れやかな笑顔になっていた。
「たまには外仕事もいいだろ?」
「身体も頭もめちゃくちゃすっきりした」
「すこしでもリフレッシュできたなら、なによりだ」
「すこしどころじゃないよ。まだはっきりとは言えないけど、これからどうしたいのか、なんとなく見えてきた気がする」
「……それは良かった」
「さっきモトさんが言ったこと」
 唐突な瑞季の言葉に、ぼくは、「ん?」と首を傾げた。
「ここにいてもいいって、あれ、本当に本当?」
 ぼくを見据える瞳が、不安げに揺らめく。
「俺、そういうのが社交辞令なのか本心なのか、どんなふうに受け止めていいのか、分かんないんだ」
「本当に本当」
「また、来てもいい?」
「もちろん。というか、大歓迎だよ。……ぼくは、きみがここにいてくれて、すごく楽しくて、嬉しかった」
「それなら、良かった」
 ようやく安心したと言うように、瑞季はふう、と大きな息を吐き出してから、にっこりと微笑んだ。


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Posted on 2016/07/15 Fri. 23:55 [edit]

category: 月夜と檸檬

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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