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Harmonia

オリジナル小説

春風 28 


 多季の上に覆い被さって波間を漂うような緩やかさで抱き合ったり、そうかと思えば獣のような体勢で激しく求め合ったり、気がつけばカーテンを開け放した窓の外は闇に包まれていた。三度達した後、多季とふたり、倒れ込むようにベッドに沈み込み、泥のような眠りに落ちていった。
 それからどのくらい眠ったのか、目を覚ますと、多季の頭を抱え込んだ腕は完全に痺れて感覚がなかった。多季を起こさないようにそっと腕を抜き、トイレに向かう。部屋に戻ると枕元の電気スタンドが灯っていて、多季が上体を起こし、目を何度か擦った後、大きく伸びをした。
「……おはよ」
 まだ夢見心地の声で多季が囁く。やわらかな微笑みが、多季が心からリラックスしていることを伝えていた。
「シャワー浴びてきてよ。汗かいて気持ち悪いだろ」
「あ、うん」
 ベッドから勢いよく起き上がった多季が、クローゼットから新しいバスタオルを取り出してくれる。それを受け取って、浴室へと向かった。シャワーで体中をくまなく流す。多季と抱き合ったという証しが、肩や胸など至る所に散らばっていて、菫はその記憶を反芻して、ひとり頬を赤らめた。

 部屋に戻ると「はい」とミネラルウォーターのペットボトルを差し出された。真っ裸のままの多季が交代でシャワーに向かう。部屋には明かりが灯されていて、カーテンも閉められていた。時計を見ると、ちょうど日付が変わった頃だった。窓をすこしだけ開けて外の様子をうかがう。雨は止んだのか、雨音は聞こえてこなかった。
 ベッドの端に腰掛け、まだおさまらない顔の火照りにペットボトルを充てて落ち着かせた後、ここへ来た時に多季が用意してくれた服を床から拾い、身につける。服からはかすかに多季の匂いして、すこしだけ照れくさいような、甘やかな気持ちに包まれた。

 浴室から戻ってきた多季が菫を見て「残念」と口を尖らせながらつぶやく。
「裸だったらもう一回押し倒そうと思ったのに」
「……」
 際どいことを言われて、せっかく収まりかけた顔の火照りがぶり返しそうになる。
 鮮やかな青のTシャツを着込んだ多季が、「服、洗濯しておくから」と言って床に散乱したふたりの衣服を拾っていく。
「……あの、今夜はここに泊めて貰っていいかな?」
「当たり前だろ。今から帰れなんて言わないよ」
 その返事にほっとして、多季の背中を見つめながらミネラルウォーターを喉を鳴らして飲んだ。

「腹減っただろ? ちょっと待ってて」
 のんびりしてていいから。そう言って、多季はキッチンへと向かった。しばらくベッドの端に腰掛けたままでいたが、完全に手持ち無沙汰なので、立ち上がって多季の書棚を眺める。
 書棚には本やDVDが所狭しと並んでいた。ヨガの本もあるが、圧倒的にバレエの専門書や文学書が多く、英語やフランス語などの洋書がかなりの割合を占めていた。DVDも外国のものが多く、タイトルだけでは内容が分からない。そのひとつに手を伸ばしてケースを見ると、赤い大きな旗を掲げ、大勢の人が舞台の上で歌っている写真だった。
 そこにトレーを持った多季が現れ、菫はびくりと身体を震わせた。挙動不審な菫を見つめ「どうした?」と訊ねられる。
 DVDに目をやった多季の表情が、一瞬で翳ったのがはっきりと伝わってくる。
「ごめんっ、勝手に見たりして」
 その様子に慌てて謝ると、多季はすこし困ったように、あいまいに微笑んだ。
「レ・ミゼラブル」
「……え?」
「っていうミュージカルのDVD。……さ、出来たよ。冷めないうちに早く食べよう」
 話を打ち切るようにそう言った多季の勢いに押され、菫はそそくさとDVDを元に戻し、ローテーブルの前に座った。


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前回の更新ではご心配をおかけしました。
今後は体調に気を付けながら、無理なく更新を進めて行きたいと思います。


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Posted on 2017/04/17 Mon. 00:00 [edit]

category: 春風

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