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Harmonia

オリジナル小説

春風 40 


 車がやっとすれ違えるほどの狭くくねった坂道を、バスは上っていく。山の中腹を過ぎた、小さな商店前のバス停で降車する。そこから車も入れない、細く急な階段交じりの坂道を上ること十分。ようやく菫の実家の前に辿り着いた。
「……さすが坂の町って言われることだけはある」
「けっこうきついだろ」
「でも、眺めは最高だね」
 体力が自慢の多季でも、慣れない坂道には疲れたようで、手すりに凭れて息を切らしていた。段々に連なる家々と、その下に広がる青くきらめく海。長崎港を一望できる、菫自慢の眺望だ。爽やかな風に吹かれながら、ふたり並んで、そのうつくしい景色を眺めていた。

 菫の実家は住宅が密集する狭い土地に建てられた、小さくて古びた家だ。多季の実家を知っているだけに多少の引け目はあるものの、やはり生まれ育った我が家を見て欲しくて、実家に泊まってもらうことにした。インターホンを鳴らし、ドアノブを回す。
「ただいまー」
 玄関に入り、靴を脱いでいると、台所からバタバタと足音が響いてきた。
「お帰り。お疲れさま」
 満面の笑みを浮かべた母が、エプロン姿で現れた。
「こんにちは。桜庭多季と申します。お世話になります」
 菫が紹介する前に、多季がはっきりとした口調でそう告げると、恭しく頭を下げた。
「こんにちは。遠いところをようこそ。疲れたでしょう。さあ、入って」
 久しぶりに生で聞く、てきぱきとした早口や家から漂う匂いに懐かしさを感じながら、居間へと向かった。
「今ちょうど昼ご飯作ってたところなの。ハヤシライスだけど、食べる?」
 一瞬考えてから、隣に佇む多季の顔を伺うと、「いただきます!」と即答された。
「ちょっと待っててね。すぐに用意するから。あ、菫。今日は夜勤やけん、夜は適当に食べとって」
「よかよ。外で食べてくっけん。こいお土産。職場にも持ってって」
 多季とふたりで選んだ菓子が二箱入った紙袋と手渡すと、母は嬉しそうに微笑んだ。
「後でお茶入れて、三人で食べよう」
「先に荷物ば置いてくる」
 多季に行こう、と言って、二階に上がる。部屋に入るなり、ぎゅっと抱きしめられた。
「菫の長崎弁が可愛すぎる」
 くびすじに顔を埋めた多季が、鼻先でぐりぐりと押してくる。そのくすぐったさに身悶えた。
「……いじ恥ずかしか」
「これだけでもう、来た甲斐があったな。大満足」
「なんだよそれ」
 真っ赤に染まった耳たぶに、チュッとキスされる。仕返しに、菫も多季のくちびるに噛みつくようなキスを返した。


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Posted on 2017/05/08 Mon. 00:30 [edit]

category: 春風

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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