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Harmonia

オリジナル小説

春風 44 


 情熱的に求められるまま、何度も多季と抱き合って、結局眠りについたのは明け方近くのことだった。深い眠りが途切れた頃、一階から聞こえてきた物音で目を覚ます。薄目を開くと、すでに日は高く上がり、窓辺からは明るい陽差しが降りそそいでいる。時計を見ると、十時をとうに過ぎていた。
 隣の布団で眠る多季は、布団のなかで胎児のように身体を丸めて、すうすうとすこやかな寝息を立てている。その無邪気な寝顔をしばらく見つめた後、起こさないようにそっと布団から這い出て、一階へと降りた。

「お帰り。お疲れさま」
 ちょうど浴室から出てきた母に声を掛ける。夜勤明けの、目の下に疲れが滲んだ顔を見て、前に会った時よりもすこし老けたな、と思う。
「おはよう。いま起きたと?」
 寝癖でぼさぼさになった菫の頭を見つめながら、母が苦笑した。
「うん。つい夜更かしばしたけん。……豚まんば買うてきたけど、食べる?」
 冷蔵庫から取り出した豚まんを電子レンジで温めながら、電気ケトルで湯を沸かす。熱いお茶を淹れて、豚まんと一緒にテーブルに並べた。
「ありがとう。あんたも食べんね」
 母に勧められて椅子に腰掛け、温め直した十個の豚まんを半分ずつ食べた。
「昨夜は次から次へと生まれて、目ば回りそうなごと忙しかったっさね」
「おくんちの夜やけん、赤ん坊も興奮しとったとかな」
「確かにそうかも知れんね。……多季くんは? まだ寝とっと?」
「うん。普段忙しかけん、疲れとっとやろ」

 豚まんを食べ終わり、ゆっくりとお茶を飲みながら、バラエティ番組の再放送を観て笑っている母に呼びかけた。
「母さん、あんさ、……今日、父さんに会いに行ってくる」
 一瞬大きく目を見開いた母が、険しい表情で菫を見据えた。しばらくの沈黙の後、ふっと息を吐きながら、菫を労るような表情を浮かべた。
「……無理せんでもよかよ」
「いや、無理はしとらん。……久しぶりに会いたくなったっさ。……父さんは、変わりなかと?」
「相変わらずたい。……そんでも、本当に大丈夫ね? 一緒に行こうか?」
「多季さんに付いて来てもらうごとすっけん大丈夫。……そいに、おいももう大人たい」
 菫の言葉に、「そいはそうね」と母が頷いた。
「あ、夜は中華街でご飯ば食べよ。おいが奢ってやるけん」
「そがん気い使わんでもよかとに」
 そう言いながらも、母はとても嬉しそうに微笑んだ。就職して初めてもらった給料を仕送りした時も「自分の将来のために貯金ばしとかんね」と突き返された。そんな気丈な母に、ささやかでも親孝行をするのが、菫のたっての願いでもあった。
 突然「父に会いに行く」と言い出した菫に思うところはあるはずだが、母はその理由を敢えて問いただそうとはしなかった。そのままふたり、時折笑いながらテレビを観て、他愛のない会話をする。一緒に住んでいた頃となにひとつ変わらない、懐かしい、穏やかな日曜日の午前中だった。


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Posted on 2017/05/12 Fri. 00:00 [edit]

category: 春風

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