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Harmonia

オリジナル小説

ルート9 14 


「キスしてもいい?」
 くびすじに熱いくちびるを押しあてながら、吐息だけで囁かれた。
「ダメ」
 それってもうしてるだろ、と思いながら、それでも僕は即答する。
「えー、どうしてダメって言うんだよ」
「だってキスだけでは収まらないだろ君は」
「確かにそうかも知れないけど、ここまで来たんだからもういいじゃん」
「野外セックスはしない主義なんだ」
 と友人との件は完全に棚に上げて、僕は断固として言い切った。
「そんなこと言って、……案外燃え上がっちゃうかもよ」
「嫌だね。……キャンプしてると、たまにいるんだよ。どこぞのカップルが夜中にぎゃあぎゃあ叫んでうるさくて眠れなかったり。知ってるか? テントって防音効果ないから全部声筒抜けなんだぞ。しかも、ゴム付けるときに明かり付けたら、なかの様子が影で丸見えなんだぞ」
「……必死で声押し殺しながら悶えてる伸一さんの姿も悩ましくてめちゃくちゃ興奮しそうだよね」
 デレデレした声でそうつぶやいた帆夏の頭を、バシリと叩く。
「……痛って、」
「とにかく、明日の朝、隣のテントのおじさんと顔を合わせられないようなことはしたくないからな」
「分かった。それは屋内ならOKってことだよね」
 いったいなぜそう受け止めるのか。
「は?」と惚けた声を上げた僕を見つめてくる帆夏の視線が、意外にも真剣そのものなのが、暗闇のなかでも存分に伝わってくる。
「俺、伸一さんが好きだ。本気だよ」
「……」
「だから、Kに着いて、全部けりを付けたら、俺、伸一さんのこと抱きたいです」
 そう言い放ってから、だめ押しのように「いや?」と訊ねられる。
「……」
 嫌じゃない。嫌じゃないから困るのだ。
 こんなにも情熱的に口説かれて、ときめかないはずがないではないか。
 現に押しあてられたくちびるに身体を震わせ、「抱きたい」という囁きに身体の芯が熱くなっているのだ。
 
 ふたたび友人のことを思い出す。恋愛感情を隠し通せないまま、「ごめん」と言いながら僕を抱いて、それをなかったことにした男。友人としては最高の男だったが、恋愛相手としては、彼はあまりにも臆病すぎた。
 もしもあの時の彼の言葉が、「ごめん」ではなく「好きだ」だったとしたら、ふたりの関係はいまとは違ったものになっていたのかな、とも思う。
 そう思いながら、やはり僕は「好きだ」という気持ちや「抱きたい」という純粋な欲望を、傷つくことを怖れずまっすぐに伝えてくる帆夏のことを、心から好ましいと思うのだった。

 答えを返さない僕に、とどめとばかりに「やっぱりキスしてもいい?」と帆夏が訊ねてくる。
「ダメ」
 そう言いながら、僕は帆夏の頭を両手でぐいと引き寄せ、たっぷり五秒間、くちびるを合わせた。
 チュッと音をたてて離れると、帆夏はぐったりと僕の身体の上に倒れ込んでくる。
「なんか、いまのだけで俺一生伸一さんに敵わない気がする」
 力なくそうつぶやく帆夏の身体を押しのけ、「おやすみ」と背を向ける。
 綿菓子みたいにふわりと甘やかな気持ちに包まれながら、僕は眠りの世界へと誘われていった。


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Posted on 2017/08/23 Wed. 00:00 [edit]

category: ルート9

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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