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Harmonia

オリジナル小説

ルート9 19 


 翌朝僕は庭で炭火を起こして、昨日買ったのどぐろの干物を焼いた。
 和室で寝ている帆夏を起こしに行くと、帆夏は眠そうに目を擦った後、大きく伸びをして、のそりと起き上がった。
「おはよ。……あ、美味しそうな匂いがする」
「のどぐろ焼いたから、冷めないうちに起きてこいよ」
「すぐ行く」
 洗面を済ませた帆夏が庭に降りてきた所で、飯盒で炊いたご飯をよそい、フリーズドライの味噌汁に湯を注ぐ。帆夏は威勢良く「いただきます!」と言って、早速のどぐろの干物に箸を伸ばした。
「うわ、これめちゃくちゃうまい」
「だろ。炭火焼きの干物って最高だよな」
「いいなあ。毎日こんな風にキャンプみたいな生活してるんだ」
「景色は最悪だけどな」
 そう、ここはK市内の中心部にほど近い市街地で、都市化が進むにつれ周囲の家と土地はほぼ売られてしまったらしく、昭和前期に建てられたノスタルジックなこの家の両隣はコインパーキングとコンビニ、そして道路を挟んで向かいは二十四時間営業のスーパーと、静けさとはまったく無縁の環境なのだ。
「まあ、隣近所に家がないから、こうして庭で煙を出しながら魚焼こうが何しようが、苦情すら来ないのいいところなんだけど」
 あくまでもオフィスと割り切っている家だし、キャンプから帰った後の淋しい気持ちには、夜の煌々とした明るさや、ひとや車の騒々しさがかえって心地良いのだった。
「帆夏こそ、ちゃんと眠れた?」
「布団に入って十秒で記憶がないよ」
 家には布団が一組しかないので、布団は帆夏に使ってもらい、僕はいつも通り車内で就寝した。

 帆夏は寝る前、「本当はものすごく一緒に寝たいけれど、今夜一緒の部屋で寝たら、間違いなく百パーセント襲いかかると思うから我慢する」と言って、名残惜しそうに僕をぎゅっと抱きしめてきた。そんな帆夏の台詞を聞きながら、ある程度の年齢を重ねてすっかり厚かましくなった僕は、「そこまでしたいのなら、もういっそのことすればいいのに」と思ってしまうのだが、きっと帆夏にとっては「過去の恋愛にけりを付ける」ことが先決なのであって、そういう若者ならではの感性をとうに失ってしまった自分を省みながら、そこは敢えてなにも言わずに「おやすみ」とだけ告げて車へと向かったのだった。

「今さらだけど、携帯の番号教えてよ。あと、パソコンのアドレスと、一応この家の住所も教えてもらってもいい?」
「いいよ」
 僕はメモ帳にアドレスなどを書いて、帆夏に差し出した。それを受け取ると、すくっと立ち上がった帆夏は食器を下げたり洗い物をしたりと、てきぱきと動き出す。布団を干し、着替えを済ませた帆夏が、「ありがとう。必ずまたここに戻ってくるから」と言って、一瞬真夏の太陽みたいに晴れやかな笑顔を僕に向けると、くるりと踵を返し、颯爽と玄関から出て行った。


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Posted on 2017/08/28 Mon. 00:00 [edit]

category: ルート9

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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