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Harmonia

オリジナル小説

ルート9 23 


 別府駅に到着して十分後、改札口の人混みに紛れて現れた帆夏が、僕を認めて大きく手を振りながら小走りで駆けて来た。
「伸一さん! 会いたかった!」
 そう叫びながら、人目もはばからず僕の身体をぎゅーっと抱きしめてくる。じゃれつく大型犬のような帆夏をなだめながら、強く腕を引き、なかば無理矢理車内へと引っ張り込んだ。
「ずっと会いたかったよ。伸一さんも俺に会いたいって思ってくれてた?」
 大きな目をくりくりとさせて、そんなことを訊ねてくる。二週間前よりもすこし日に焼けたきれいな顔が近づいて、顎が肩に乗ったと思ったら、またぎゅっと抱きしめられた。ひとしきり抱きしめられ、帆夏が落ち着いたのを見計らってから、僕は話を切り出した。
「……えっと、訊きたいことがたくさんあるんだけど」
「いいよ。何でも話すよ」
「この二週間、どこで何してた?」
「バイトだよ。めちゃくちゃ頑張って働いたよ。ほら、」
 と言いながら、帆夏は鞄のなかから茶封筒を取り出し、数十枚の紙幣を見せてくる。
「実は俺、伸一さんと出会うまでに、所持金ほぼ使い果たしちゃったんだよね、……でも、これから帰らなきゃならないだろ。高速バスくらいには乗りたいから、仕方なく」
「……どこで寝泊まりしてたんだ?」
「最初はネットカフェ、その後はバイトで仲良くなった奴らのアパートを転々としてた」
「それならうちに泊まれば良かったのに」
「だから、言ったじゃん。全部けりをつけたら、伸一さんのこと抱くって。もし伸一さんの家に帰ったら、俺バイトどころじゃなくなるもん。一日中でも毎日でもやりまくって、絶対働けないのは目に見えてるもん」
 なんとも露骨な表現に閉口する僕をそっちのけで、帆夏は続けた。

「ちゃんと、全部けりを付けてきたよ。相手はずっと俺から逃げてたから、俺、今度会ったら殴ったり、もしかしたら刺したりするかもって、本気でそう思ってた。……でも、本当に不思議だよね。会ってしまえば、すごく静かな気持ちで、全然怒りとか湧いてこなくて、『いままでありがとう。さよなら』とだけ言って、それでおしまい」
「……」
「付き合ってたひとは、俺が通ってる大学の先生だったんだ。去年こっちの大学に移って、俺は遠距離でも続けるつもりだったけど、ある日別の先生からそのひとに奥さんと子どもがいることを偶然聞かされて。俺がそのことを電話で問い詰めたら、無言のまま切られて、それっきりだよ。それから何度掛けても繋がらなくて、そのうち携帯解約されてしまって、」
「……」
「妻子持ちって分かった時点で、別れることを決めたんだ。だって、知らなかったとは言え、俺が夫や父親を奪ってしまっていたことは事実だろ。俺、誰か他のひとを傷つける恋愛なんて、絶対嫌だもん。だけど、どうしても本人から直接訊きたかったんだ。俺のこと、どう思っていたのかって。本当に好きだったのかって。だから、いま勤めてる大学の研究室に押し掛けようと思って、ここまで来たんだ」
「……」
「でも、実際に会ったら、そんなこと全部どうでもよくなった。もうとっくに終わってたんだ。馬鹿だよね、自分で何度もそう言ってたのに。……一言だけ言って、研究室を出て歩いてたら、学生向けのアルバイトの掲示板見つけてさ。『これだ!』って思って、その場で電話掛けて申し込んで、それからずっとバイトしてたって訳」
 そこまで言い切って、にっこりと微笑みながら僕の顔を見つめてくる。そんな帆夏の邪気のない笑顔にふたたび苛立ちがめらめらと募ってきて、我ながら子供じみているとは思いながらも不自然に視線を逸らした僕に、「どうしたの?」と帆夏が眉をひそめた。


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Posted on 2017/09/01 Fri. 00:00 [edit]

category: ルート9

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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