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Harmonia

オリジナル小説

雲を抱きしめる 6 


「え? ……ええっ? なんで?」
 いったいなぜここに伸一さんがいるのか、睡眠不足の俺の脳ではまったくこの状況を理解できず、軽くパニックになって叫んでしまった。
 そんな俺に微笑みながら、伸一さんは隣の椅子に腰掛けた。
「いつ来たの? どうやって?」
「昨夜、電話の後すぐに家を出て、高速ぶっ飛ばして朝着いた」
「でも、仕事で缶詰になってたって……」
「ああ、二日間ほとんど寝てなかったから、運転しながら意識飛ばしそうだった。実際、運転中のことあんまり覚えてないし」
「それだめじゃん!」
 人ごとのように微笑みながら話す伸一さんを、俺はぎっと睨み付ける。
「寝てない上に長時間運転なんて、危険すぎるよ。なにかあったらどうすんだよ」
「だって、帆夏に会いたかったんだもん」
 しれっとそう言ってのける伸一さんに、「絶対ダメ!」と念押しする。
 だいたい、「だもん」って何だよ、可愛すぎるだろ、と心の中で悶えながら、無理矢理しかめっ面を作って伸一さんを見据える。
「伸一さん、見た目若いけどおじさんなんだから、そんな無茶したらダメだ」
「帆夏のためなら、どんな無茶だってするよ」
「……」
「だって、帆夏も、僕に会いたかったんだろ?」
「……うん。会いたかったよ」
 包み込むように優しい視線を感じながら、俺は素直にそう応えた。
「会いたくてたまんなかった。だから、いま、俺、すげえ嬉しいんだよ」
「うん」
「伸一さん、昨日はごめんなさい」
 そう言って、ぺこりと下げた俺の髪を、ぐしゃぐしゃと伸一さんが撫で上げる。
「機嫌直った?」
「これで直らないわけないだろ。……あ、でも絶対無理はやめてよ。俺、心臓持たない」
 分かったよ、と言いながら、「でも鳩が豆鉄砲を食ったような帆夏の顔がめちゃくちゃ面白かったから、またやろう」なんて、悪い顔をしてつぶやいている。

 やっぱり変人だ。それでもって、最高に格好いい、俺の恋人。

「帆夏の顔見たら、腹減った。飯食いに行こう」
 ようやく安心したからだろうか、伸一さんの言葉に共鳴するように、俺の腹の虫もぐうぐうと鳴り始める。
「近くにおいしい定食屋があるから、行ってみる?」
「ああ、行こう」
 すっと立ち上がると颯爽と歩き始めた伸一さんに追いついて、細く骨ばった手を握りしめた。
 驚いた顔をして見つめてくる伸一さんに、えへへと笑う。
「ちょっとだけ」
 そう言って、だらしのない笑顔を向けた俺に、「仕方ないなあ」という風な表情を浮かべた伸一さんが、ぎゅっと握り返してくれる。

 もうどうしようもなくこのひとのことが好きで、胸の鼓動が止まらない。

 手のひらだけじゃ到底物足りなくて、いますぐ皮膚という皮膚すべてを密着させたいなあ、なんて思いながら、それでも握りしめた手から伝わってくる温もりが、嬉しかった。


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Posted on 2017/09/25 Mon. 12:00 [edit]

category: ルート9

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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