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Harmonia

オリジナル小説

雲を抱きしめる 8 


 冷静に言い放たれたその言葉の重さは、時間の経過とともにじわりじわりと俺を打ちのめし始める。
 返事も反論もできないまま、黙り込んだ俺に、伸一さんはふっと微笑んでから、続けた。
「あのな、妻子持ちってことを隠して付き合い始めた時点で、先生は家族だけじゃなく、帆夏のことも裏切ってるんだよ。離婚は夫婦の問題であって、帆夏はまったく関係ないのに、それでも自分が悪いとか思ってしまう帆夏の優しさや人の良さを巧妙に利用してるんであって」
「……」
「今日だって、いままで散々無視したくせにどの面下げて逢いに来てんだよって話だろ。謝りたいとか、体のいい言葉並べながら、帆夏にすこしでも隙あらばまたよりを戻したいとか言い出したんじゃないのか?」
「……」
 それは昼間に俺が薄々感じ取った、先生の弱さと嫌らしさを的確に表現していて、俺は伸一さんの言葉にぐうの音も出なかった。

「仕事の上での先生は、帆夏にとって憧れのひとなんだろ? その気持ちまで、なくさなくていい。ただ、恋愛はやめとけよ。先生は帆夏の恋愛相手には向いてない」
「……うん」
「だいいち、こんなに可愛い帆夏を傷つける男なんて許せない。……僕にしろよ」
「……うん。先生のことは、本当にもうなんとも思ってないよ。それに、伸一さんのほうがずっと好きだ」
 俯いたまま、頭を伸一さんの胸にぶつけると、伸一さんが耳やくびすじを優しく撫でてくれた。
「好きすぎて、困ってるんだ。いつもこんな風に会えないのが淋しくて、迷惑だって分かってるのにいっぱい連絡したりして」
「……」
「伸一さんには仕事があるし、大人だから、いつも俺にばかり構ってられないってことも頭では分かってるけど、それでも淋しくなって、ひとりでいじけて。こんな俺でも、伸一さんはいいの? 正直鬱陶しいって思ってる?」
「鬱陶しいなあって思いながら、そんな帆夏が可愛くて堪らない」
「やっぱり鬱陶しいんじゃん」
「でも、帆夏はそのままでいいよ。鬱陶しくても、淋しがり屋でも、お人好しでもなんでもいい。僕はいまのままの帆夏が好きだ」
 耳たぶに触れる伸一さんの指先の冷たさに反して、俺の身体がどんどん熱くなってくる。
 もっと、もっと触れて欲しい。
 堪らなくなって、伸一さんを見上げる。
 きっと俺は、ものすごく物欲しそうな目をしている。
 そんな俺を、満足そうに目を細めて見つめ返す伸一さんの顔がゆっくりと近づいて来て、耳許で「行こうか」と囁いた。
 その吐息の熱にさえ、溶けてしまいそうだ。頷きながら、まだ耳を弄る手に俺の手を伸ばし、きつく握りしめた。

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Posted on 2017/09/27 Wed. 12:00 [edit]

category: ルート9

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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