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Harmonia

オリジナル小説

僕を愛したスパイ 5 


 顔を上げ、晃生と向き合う。本当は恥ずかしくてたまらないけれど、僕にはいま、晃生に伝えなければならない言葉があった。
「散々無視して、ごめん。あの頃、僕は晃生がうらやましかった。明るくてみんなの人気者の君に、嫉妬してた。いくら担任に頼まれたからって、あんな風に優しく僕に接してくれたのは、君だけだったのに……」
「それは違う」 
 僕の言葉を遮るように、晃生が低く言い放った。今度は僕が目を丸くして、晃生を見つめる。

「もしかして、俺が話しかけたのは担任に頼まれたからだって、愁はずっと思ってたのか?」
「……え、」
 訳が分からなくてぽかんとしている僕に、晃生は明らかにムッとした表情を浮かべた。どうやら僕は晃生を怒らせてしまったらしい。
「あの、……えっと、」
「ホント、愁って鈍いよな」
「……ごめん」
 そうつぶやいた声がみっともなく震える。潤んできた瞳を見られたくなくて、ふたたび俯くと、晃生はそれを阻止するように、ぐいと顎を掴んで顔を持ち上げられた。
 晃生の顔が近い。近すぎて、心臓が痛いくらいドキドキと鳴り響く。
「一目惚れだったんだからな」
「……え?」
「だから! 俺はあの時愁に一目惚れしたんだよ」
「……」
 晃生の言葉が脳内で空回りしている。ヒトメボレ。ひとめぼれ。……ってそれは、一目惚れ? 
「……それって、……ひょっとして、僕にってこと?」
「だから、いまそう言ったろ?」

 理解の悪すぎる僕に呆れたのか、晃生は大きなため息をひとつ零した後、苦笑している。
「初めて会った日の愁は、細くって恥ずかしがり屋で、仕草も態度もめちゃくちゃ可愛くって、絶対に俺が守ってやらなければって思ったんだ。あの頃はまだ黒縁眼鏡でほとんど顔が隠れてたから良かったけど、ほら、さっきも入り口の男どもにエロい目で見られてたし」
「え、えろ?」
 びっくりしすぎて素っ頓狂な声で叫んでしまう。
 「これだから無自覚は困る」と言いながら、やれやれといった表情で晃生は僕を見つめた。

 僕が他人からそんな目で見られたことなど、未だかつてなかったはずだ。いったい晃生はなにを言っているのか、僕にはやはりまるで理解できなかった。
「ま、そういう天然な所が可愛くて好きなんだけどね」
「……で、でも、それならどうして何も言わずにイギリスに行ってしまったんだよ」
 徹底的に無視した相手を責めることなどできる立場ではないとは重々承知の上で、それでも訊かずにはいられなかった。
 睨み付けるように見つめ返すと、晃生は目を細めた。口元は微笑んでいるのに、その表情はなぜか淋しげにも見える。
「愁」
 優しい声音で名前を呼ばれ、さらに目を細めた晃生の精悍な顔が、ゆっくりと近づいてくる。
 晃生のくちびるが僕のくちびるに触れる、そのやわらかな感触に、からだじゅうに甘い痺れが駆け抜けるのを感じていた。

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Posted on 2017/12/04 Mon. 00:00 [edit]

category: 僕を愛したスパイ

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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