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Harmonia

オリジナル小説

悪い男 4 


「もちろん、これは取引だ。ただでとは言わないさ」
 そう言って、晃生がスマートフォンを差し出してくる。
「……っ!」
 思わず息を飲んだ俺に、「あんたの好みだろ?」と晃生は笑った。

 液晶画面には、両腕を壁につき、もたれるように立った、黒ビキニ一枚の愁の後ろ姿。首を捩って振り返った顔は、恥ずかしくて堪らないといった様子で赤く染まっている。
「け、ケモミミ……」
 愁の頭には大きな黒い耳、尻からは黒く長いしっぽが突き出ている。

 可愛い。とんでもなく可愛い。破壊力抜群の画像に、このままスマホを奪って逃走したい衝動をぐっと堪え、俺は晃生を睨み付けた。
「これでも足りない? まったくどうしようもない変態だな」
 それなら、こんなのはどう? と表示された画像を見た瞬間、後頭部を力任せに殴打されたような衝撃が走る。
「ふっ! ブフッ……」
「……おい鼻血吹き出たぞ」

 黒猫のコスプレのまま四つん這いになった愁が、上目遣いにカメラを見つめながら、赤い舌を突き出しアイスキャンディーの先端を舐めている。
 先ほどの画像のはるか上を行く破壊力に、脳内出血を起こしそうだ。くらくらしながら、けれども俺は差し出された紙ナプキンで鼻を押さえ、必死で晃生を睨み続けた。

「決して誰にも見せないと約束するなら、今後も定期的に愁の画像を送ってやる」
「……」
「それでもお前が納得できず、愁にこれまでの経緯をすべて話すと言うなら、……えっと、いま何時?」
「……十一時、四十七分」
「それならいまから一時間後、十二時四十七分には、あんたはこの世から消えてるさ」
 そう言って、非情な笑みを浮かべた晃生の顔を見つめる俺の額から、脂汗がどっと滲んでくるのを感じた。



 晃生に脅迫され、俺に課せられた任務は、殺人ウィルスと解毒剤開発の進捗状況を随時報告すること、そして完成した際にはただちにそれらを晃生に手渡すことだった。

 あの日、愁が留守にしたのを見計らって、完成したばかりの殺人ウィルスと解毒剤を詰め込み、急いで晃生との待ち合わせの場所に向かった。
 アタッシュケースを受け取った晃生は、ぞくりとするほどきれいな顔にやわらかな微笑みを浮かべ、俺の耳許にくちびるを寄せた。

「あんた、いくら俺が監視してたとは言え、愁に手を出さなかったのは不幸中のさいわいだったな」

 晃生の囁きに、俺は瞠目したままその場に立ち尽くした。愚かしくも、その時になってようやく俺は、晃生が俺に接触した本当の目的に気づいたのだ。

「……お前、初めから坊ちゃんを……」
 俺のつぶやきには答えず、晃生は微笑みを浮かべたまま、夜の闇へと消えて行った。



「どうする?」
 そう言って、鴨肉のローストを美味しそうに頬ばる晃生の顔を無言のまま見つめていると、陽気なクリスマスソングが耳に届いた。晃生と対峙する緊張のあまり、いままで音楽が流れていることすら気づかなかったらしい。

 そうか、世間はいま頃クリスマスで盛り上がっている時期なのだ。だからクリスマスプレゼントか。愁は俺に何を選んでくれたのだろうか。

 愁がまだ子どもの頃、一緒にツリーを飾ってお祝いしたことを思い出す。愁を喜ばせたくて、わざわざサンタの恰好なんかして、ふたりで作ったケーキを食べたっけ。

「……次はサンタのコスプレで頼む」
 ふと思いついて、そうつぶやいた後、また変態扱いされるのかと思い、ひどく後悔した。

「了解。とびきりのやつを送るよ。……ささやかなクリスマスプレゼントだ」
 愁と同じ天使の顔で、悪魔が微笑んだ。


 →
 


次郎編はこれでおしまいですが、あとすこしだけ。
次回は晃生視点です。


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Posted on 2017/12/15 Fri. 00:00 [edit]

category: 僕を愛したスパイ

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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