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Harmonia

オリジナル小説

あかい糸 16(最終話) 


出雲から夜行バスに乗り、僕たちの短い旅が終わった。
東京に帰ってからすぐに僕たちは一緒に暮らす部屋を探し始めた。二人で入居できるアパートやマンションは意外と多いのだが、来春まで埋まっている物件が多くて、結局予約だけして春まで待つことにした。契約では仕事で東京に来ていた母親に立ち会ってもらったおかげですんなりと事が進んだ。僕たちは春が待ち遠しくて堪らない。

櫟はあの旅行以来、すっかりお茶と和菓子にはまり、茶道を習い始めた。女性ばかりのお稽古に若い男が加わったことでかなり可愛がられているらしい。茶器にも興味を持ったらしく、最近は陶芸の専門書も読み漁っている。僕よりもずっと日本への造詣が深くなることは間違いない。次は京都と金沢に行きたいと言って、二人でガイドブックを眺めながら、行きたい場所や店を決めるのが、二人でいるときの過ごし方になっている。

僕は色々考えて、大学院への進学を決めた。週に四日働いていたレストランのバイトを辞めて、勉強に充てる時間を増やした。その代わり週に一、二回、中学生の女の子の家庭教師をしている。先生先生、と懐いてくる女の子は可愛い。そんな話をすると、櫟はあからさまに嫌がるけれど。最近の櫟はかなりの焼きもちやきなので、ちょっと困っている。

櫟もレストランのバイトを辞めて、翻訳の仕事を始めた。

「一成が就職して、どこに転勤になっても付いて行けるように、俺は自由業に就く」

そう言い切った櫟が選んだのが、翻訳業だ。動機が動機だけど、一度やると決めたことに対して櫟はひたすら攻めて行くタイプの人間だ。やるからには一流のプロを目指したいと言って、最近机に向かう時間もぐっと増えている。今は主に産業翻訳だけど、いずれは日本文学の翻訳や、日本についてのエッセイなども書いていきたいのだと言っている。

「省子さんの本を俺が翻訳するのが、一番の目標」

そう言って目を輝かせる櫟は、やる気と希望に溢れていて、僕も負けたくないな、と思う。

未来を掴もうと必死でもがいている僕たちは、相変わらず仲良しで、上手くいっている。これからもずっとこんな感じで、時を重ねていくのだろう。

時々血が繋がっているということを思い出して、後ろ暗さに襲われることも、無いわけではない。そんな時、櫟にしがみつくと、櫟は「大丈夫」と言って抱きしめてくれる。その言葉一つで、温もりだけで、僕は安心する。大丈夫。そう自分に言い聞かせる。


十月に悠里さんが帰国して、母親の元を訪れるらしい。およそ二十年ぶりの二人の再会に、僕たちも盛り上がっている。

「あの二人は絶対大丈夫だよ」

「そうだね。だってずっと愛し合ってる」

僕も悠里さんに会えるのが楽しみだ。




おわり


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Posted on 2013/07/24 Wed. 23:03 [edit]

category: あかい糸

thread: BL小説  -  janre: 小説・文学

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